ジョホール州のイスカンダルプロジェクト  アジアの台風の目となるか

先日、ジョホール州を訪れる機会がありました。マレー半島最南端に位置するジョホール州といえば、イスカンダル・マレーシア(Iskandar Malaysia)と名付けられた政府もテコ入れする、巨大な複合的都市開発が進行中の今まさに変わろうとしている街です。

イスカンダル地区と呼ばれる開発地域はシンガポールから橋を渡ってすぐ。面積は2,217㎢、これはシンガポールの面積のおよそ3倍です。この開発計画は2006年にマレーシア政府の発表によってスタートしましたが、現在はシンガポール政府との協議も進み、高速鉄道プロジェクト(シンガポール・クアラルンプール間)、新鉄道システム(シンガポールの通勤電車がジョホール・バルまで延長)、両国政府系投資会社による共同投資事業など、マレーシアとシンガポールが連携した巨大プロジェクトになっています。


2014年現在、車窓から見えるのは工事現場とパーム畑。
ジョホール・バル市街地もコンパクトサイズで、壮大な青写真と比べると
まだまだ目覚める前の、のんびりとした地方都市の姿。


ジョホールから見たシンガポール。
泳いでも渡れそうな対岸のビル群に圧倒されています。
今回はクアラルンプール市街地に近いスバン空港から朝7時代の飛行機を利用しました。
フライト時間は1時間弱、機内はビジネス客中心でほぼ満席。
高速鉄道プロジェクトが予定通り実現すれば、
2020年には電車で1時間半かからずに行けることになります。

イスカンダル・マレーシア構想は、この地区を競争力のある持続可能な国際都市にするというものです。投資先として、職場として、生活の場として、お出かけスポットとして真っ先に選ばれる街を目指して、AからEの5つの開発地区に分け、分野ごとに特化した複合的な開発を進めています。

A地区: 金融・国際貿易の中心地に
(現在のジョホールバル市街地)
B地区: 教育、医療,観光特区 州政府機能
C地区: 港を中心とした物流拠点に
(港周辺)
D地区: 工業団地。製造業の中心に
E地区: 空港を中心とした物流拠点・ハイテク分野の中心に
(空港周辺)


(出典: http://www.iskandarmalaysia.com.my/our-development-plan

私が今回訪れたのはB地区のEduCityといわれる教育特区。海外教育機関の誘致が行われていて、キャサリン妃の出身校としても有名な英国の名門校マルボロカレッジも2012年に開校しました。現時点で半数の生徒はシンガポールからスクールバスで通っているということですから、いかにシンガポールに隣接しているかがうかがえます。


90エーカーもの広大なキャンパスで4-18歳までの学生が学び、
敷地内には8歳から入寮できる学生寮、教師の住居も完備されています。


学園映画さながらの風景が広がり、暑さがなければ一瞬どこの国にいるのかわからなくなる程。

シンガポールへの近さと広大な土地、安価な人件費を武器に、シンガポール経済圏がマレー半島にまで広がることを期待するマレーシア。イスカンダル地区の一人あたりのGDPはプロジェクト発足前の2005年でUSD14,790、シンガポールのGDP(約USD 30,000)の半分でした。これを2025年にはUSD31,000にまで引き上げようとしています。

一方、他の新興国に投資が流れるよりはイスカンダルを活用することに分があるとみたンガポールは、外資系企業に対してイスカンダル地域の利用を推奨しています。
この開発計画が予定通り実現すれば、アジアの構図を揺るがす台風の目となるかもしれません。

ところで菅原研究所のスタッフとして気になるのは、環境問題です。マレーシア政府は2020年までに二酸化炭素排出量を2005年比で40%まで削減することを公約していますが、特にこのイスカンダル地区をアジアの中で持続可能な低炭素都市のモデルにしようと考えています。
ここで登場するのが日本。2010年から日本とマレーシアの専門家による共同研究が始まりました。日本の経済発展時には実現できなかった、開発段階からの低炭素社会に向けたインフラ整備、建築をこのイスカンダル地区で実現しようとする試みが始まっています。

毎日の渋滞に、あちこちで行われている建設工事。マレーシアで暮らしていると、日本では感じられない活力を感じられる一方、大気汚染、環境は大丈夫なのかと身近な問題として日々心配になります。救世主、日本の環境対策技術がアジアに広がることに期待を寄せています。

Reported by 菅原研究所 和田麻紀子