幕末に黒船で日本にやってきたアメリカ人は日本人について「紙と木でできた家に住み、黒い紙を食べている」と説明したそうです。ひどい!と思ってしまいますが、そのアメリカ人が言った言葉はあながちウソでもありません。確かに伝統的な日本家屋は木造で、障子や襖(ふすま)など、扉や間仕切りなどの建具には紙を貼っていました。では、本当に黒い紙を食べていたのでしょうか?
その黒い紙の正体は、海苔。その通り、食べられる黒い紙です。海苔は日本人の食生活に欠かせない乾物の一つですが、日本の寿司が世界中に知られるようになった今では、この海苔が海藻で出来た立派な食べ物であることを知る人も多いことでしょう。それでも、西欧の人々はご飯を黒い紙で巻いたものを食べることに抵抗があるせいか、カリフォルニアロールは海苔をご飯の内側に巻き込んであります。
海苔は7世紀頃から高級食材として珍重され、限られた人々だけがその美味しさを知っていました。庶民が口にできるようになったのは江戸時代以降です。というのも、江戸幕府を開いた徳川家康は海苔が大好きで、海苔の養殖を推進したからです。その後、和紙の製法を応用し海苔を板状に加工した板海苔が発明され、浅草海苔と名付けられました。現在最もポピュラーなのがこの板海苔です。
海苔はわたしたちの主食、ご飯との相性が良く、海苔を使ったおにぎりや弁当は人気のランチアイテムです。なぜだと思いますか?美味しいからです。海苔にはタンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維、タウリン、EPAなどが豊富に含まれ、特にアミノ酸がご飯の味を引き立てます。海苔をちょっと焼いて食べてみると、香りがよく、それ自体に味があることがわかるはずです。
その他乾物の海藻としてポピュラーなのが、ひじきとテングサです。 写真左のひじきは海苔と同様、古くは高級食材でしたが、江戸時代以降一般市民に親しまれるようになりました。野菜や油揚げと一緒に煮て食べるのが最もポピュラーで、居酒屋さんのお通しや、お昼のお弁当や定食メニューによく使われます。食物繊維やカルシウム、鉄分などのミネラルが非常に豊富な食材です。写真右のテングサはところてんや寒天の原料です。
写真左のところてんは、テングサを煮溶かして固めたものを麺状に切ったもので、主に、酢、しょうゆ、和からしとともに食べます。食物繊維が豊富。わずかに弾力のある食感が特徴で、暑い夏に冷たく冷やしていただくと、つるつるとしたのど越しに暑さを忘れます。
寒天は寒い季節に作ったところてんを畑で凍結させてから干したもの。ところてんよりもきめが細かく海藻の臭みがありません。食感はゼリーに似ているため、甘味として使われることが多く、茹でて角切りにした寒天と茹でた赤エンドウ豆、求肥、くだものに黒蜜をかけたみつまめは明治時代から人気のスイーツ。写真右の豆かんは、寒天と赤エンドウ豆に黒蜜をかけただけのもので、さっぱりとした甘さが人気のヘルシースイーツです。
海藻類は総じて食物繊維とミネラル、ビタミン、炭水化物でできており、それ自体にほとんどカロリーがありません。食物繊維のおかげでわずかな量で満足感があり、少しの味付けで美味しくいただけるため、ダイエット中にお腹がすく、甘いものが欲しいというときにところてんや寒天スイーツを食べると、食欲を抑え気持ちが落ち着いて、スムーズにウエイトコントロールができる人が多いようです。 このように、見た目は地味ですが、海藻の乾物には優れた成分が詰まっており、日本人はこの食材を大いに活用しています。
Reported by 菅原研究所 青池ゆかり