太陽と山海の恵み―日本の乾物 ①

太古の昔より、人は栄養を蓄え、活動する上で様々な知恵を絞ってきました。狩猟や農耕によって食糧を得ると同時に、不足時に備えて保存する方法を考えました。中でも、最も古い方法が乾燥によるもので、食べものを天日にさらし水分を取り除くことで、腐敗をもたらす細菌の繁殖を防ぎ長期保存が可能になりました。

コメ、ムギ、トウモロコシ、豆などの穀類・豆類については、全世界でかなり古くから乾燥による保存がなされてきました。また、肉食が盛んな地域では干し肉が、海沿いの地域では魚や海産物を干したものが作られるようになりました。

日本には数多くの乾燥食品があり、その多くが日々の食事に欠かせない伝統食品です。わたしたちはそれらの食品を総じて「乾物」と呼んでいます。例えば、魚介類では干したアワビや貝柱、鰹節、スルメなど、海藻類では昆布、ひじき、海苔など、穀類ではそばやうどんなど、野菜類では干し椎茸、かんぴょう、切干大根などなど、豊富な種類の乾物があり、いずれも太陽と山海の恵みです。

日本人にとって、乾物は保存食品であること以外にも様々な価値を持ちます。
第一に、高級食材であり、冠婚葬祭などハレの日に欠かせないもの。第二に、料理を一段と美味しくする魔法の調味料。そしてさらに、最近では健康増進に欠かせない天然のサプリメントとしてその価値が見直されてきています。

昔、八百万の神を信仰していた日本人は、全国に神を祀った神社を建て、祭礼や禊(みそぎ)、祓い(はらい)などの儀式、神事が行われるようになりました。神事に欠かせないのが供物。神道では供物のことを神饌(しんせん・みけ)と呼びますが、その神饌の多くが乾物でした。
神饌の中身は神社によって異なり、各地域の旬の食べ物や名産品などが選ばれました。神事が行われている間、神に捧げられたこれら神饌は儀式終了後、直会(なおらい)という儀礼のもと、参加者一同が神酒とともにいただきます。そのため、神饌は保存がきくものが選ばれ、多くが乾物であったというわけです。
古墳時代以後は、乾物を加工したもの、特に干し鰹や昆布は貴重な食材として、朝廷への献上品となり、乾物の多くはその後高級食材として外国との交易品へと発展します。

一方、日本人は長い間肉食の習慣を持たずに来ました。肉にはイノシン酸という旨み成分が豊富ですが、肉を食べない日本人は、代わりの旨み成分を主に乾物から引き出してきました。昆布、鰹節、煮干し、干し椎茸などがその例で、いわゆる出汁(だし)です。
旨み(うまみ)という日本語は、いまや全世界で通用する言葉ですが、それもそのはず、甘味、酸味、塩味、苦みに加え5番目の基本味を発見したのが日本人の研究者で、彼らは昆布、鰹節、椎茸からそれぞれ、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸という旨み成分を発見しました。
美食の国フランスのミシュランガイドにおいて、今や日本の各都市のレストランや料亭がずば抜けて高い評価を得ているのも、日本人が旨みを引き出すセンスに優れているからではないでしょうか。乾物はその優秀さの一翼を担っていると言っても過言ではないと思います。

また、乾物は日の光をたっぷり浴び、水分が除かれているため、生の食材に比べ、栄養分が濃縮され、栄養価も高くなります。
例えば、昆布、ひじき、海苔などの海藻類にはカルシウム、カリウムや鉄などのミネラルが豊富。また、干し椎茸に含まれるビタミンDは生椎茸の10倍もあります。切干大根にはビタミン、ミネラルに加え、食物繊維が豊富に含まれています。
食の欧米化が進む一方で、忙しい毎日を送る現代の日本人にとって、乾物は不足しがちな栄養素を補ってくれる強い味方です。まさしく、天然のサプリメント。

日本の乾物には、食材ごとに様々な歴史とエピソードがあります。これから何回かにわたって、これら乾物のお話を取り上げてみたいと思います。

Reported by 菅原研究所 青池ゆかり