日本の伝統食、梅干 ③

今回は視点をガラッと変えて、日本の伝統食材、梅を用いた人気食品の数々と最新トレンドをご紹介します。

食品業界の最新トレンドを知るには、コンビニに行くのが一番。そしてほとんどの場合、目の高さの位置にディスプレイしてあるものが、いまもっとも売れている商品です。そこでお菓子、おつまみ、おにぎり、ドリンクの棚をチェックしたところ、必ず目に入るのが梅入りの食品。さっそく調査してみました。

上の画像は、人気のコンビニ商品の数々です。梅、梅、梅。すごいでしょう?これでもほんの一部だから、びっくり。さらにこれらの商品、形状も食感も味もびっくりなんです。いま、なぜ、梅?このような梅グッズが売れているということは、わたしたちの嗜好や時代感覚に何らかの変化が生じているのかもしれません。もう少し詳しく見ていきましょう。

1)文字と味のインパクト
例えば写真左の梅干菓子シリーズ。パッケージに思わず目がいっちゃいます。なんで男?女梅はないの?と、女子ならツッコミたくなる。とはいえ、ごっつい「男梅」という文字から、硬派な男子を思い浮かべてしまうけど……。
食べてみて、納得。オンナ味じゃないわ、と思いました。ガツンと酸っぱくてしょっぱい梅干そのものの味。この強烈なインパクトにハマってしまい、オフィスに常備するほどの男性ファンがいるとか。ますらお(益荒男)という、「立派で勇敢な強い男」という意味の言葉がありますが、この飴にハマった人は、力強い書体のパッケージと甘くない飴の味に、理想の「ますらおぶり」を感じちゃうのかもしれません。

2)新形態・新食感
写真左の商品は実にユニークです。梅干をごく薄くのしたもので、厚さ1ミリ弱、重さも1グラム未満。でも、味はしっかりで、まるで梅干がマイクロフィルムになったかのよう。このほか梅を海苔ではさんだシート、種抜きドライフルーツのような干し梅、梅干グミなど、新しい形と食感の梅干味が受けています。このようなハンディーな小物菓子は、禁煙やダイエット中で口寂しい…という場合に買って食べる人も多いのでは。このカテゴリーの製品は、ビタミンC、コラーゲン、カルシウムなどカタカナ語の成分を謳ったものが主流でしたが、古風な梅干を配合したものにも人気が出て来ました。わたしたちの健康志向が少し、ケミカルからオーガニックへ、西洋から東洋医学的なものにシフトし始めているのかもしれません。

新しい食感と言えば、写真右の「梅しそごはん」は、昔ながらの梅おにぎりの進化版。梅干に、カリカリした食感の梅漬けと赤紫蘇の混ぜご飯を合わせたものです。色もキレイ。梅干の酸味にカリカリ梅の歯ごたえをプラスしたところに目新しさを感じます。

コンビニ調査でわかったことは、いま日本では、梅干のような伝統食材がお菓子のベースになるほど、和テイストがクールになってきているということです。美味しくて体にいいものを食べたい。わたしたちには常にそういう欲求がありますが、そのベクトルの方向が昔ながらの伝統食材に向かってきているのかしら?今日、ありとあらゆる国の食材や食品が手の届くところにあり、いろいろ試しているわけですが、結局のところ口に馴染み、元気が出る食べ物は伝統的な日本の食事。梅干味の商品が開発され、コンビニの人気商品になるのも、そういうマインドが根底にあるのかもしれません。

円安の影響もあるのでしょうが、今浅草はクールジャパンのキーワードに惹かれて多くの外国人で溢れかえっています。 20年前だったら、海苔や梅干、気持ち悪ーい。黒い食品はダメ、酸っぱくて高塩分の梅干しなど、海外ではあり得ない食品でした。 アメリカ人の一日に推奨されている塩分は6gで梅干し2個分という感じでしたから。

今日本でやたら梅干が人気なのは、日本人が西洋型のサプリメントの限界を感じ始め、飽きたからではないか、と個人的には思っています。今までは清涼飲料水からゼリー状のものまで、すべて何かビタミンを添加してあることがステータス、差別化の要素でした。でもそれを度外視して、一体全体何が入っているか表示しにくい梅や梅干が大人気になっているのは、栄養表示にも飽きたし、クールジャパンもいいんじゃない、という感覚でしょうか。そして何より、実際梅干入りのおにぎり、カリカリ梅とひじきの入ったおにぎりはなぜか食欲のない時にも美味しく食べられる。なんだかそのあと気分も体調も良い感じがする…それが原因だろうと思います。恐らく今までは栄養情報という外部のお墨付きを優先させてきたコンビニでの選択が、徐々に自分の感覚、五感を優先するという良い傾向に変わってきているのではとも思います。

また、外部の栄養情報で商品を売り込み続けてきたメーカー側は、それが一過性の効果しかなく、1年で売り上げが急降下するのに対し、梅関連商品は売り上げの伸びが意外と大きく、長く安定した売り上げを出している。あまり宣伝しなくてもそれが続くとなれば、費用対効果が高いと分析しているのかもしれません。
いずれにしても良い傾向だとは思いませんか? 一粒200円という高級梅干しはあっても、それ以上ぼられることもない。むしろ本物の梅干を作っている地方中小企業の活性化にも、少しは役に立っているのかもしれないのですから。

Reported by 菅原研究所 青池ゆかり、菅原明子

日本の伝統食、梅干 ②

わたしの実家では、母が毎年梅干を漬けていました。嫁いだ後、梅干が食べたくなってお店で買ってみると、見た目も良ければお値段も張るのに、味にはがっかり。特に近年市販されている梅干は、あまり塩辛くも酸っぱくもなく、「らしくない」味。健康のため減塩を好む人が増えたため、塩分を大幅に減らしたものが良く売れているようですが、甘味料を加えてあったり、着色もしてあったりで、梅干本来の健康効果があるのかどうか?

そこで母に頼んで、文字通り無添加の酸っぱい梅干を作ってもらうことにしました。母は長年の経験から、近所でも評判の梅干名人になっていました。以来、わたしは苦労もせずおいしい梅干にありついていたのですが、母も年を取ってきて、重たい材料を買ってきたり、立ったり座ったりの漬物作業で足腰に負担がかかるようになってきたため、今年は一から、名人直伝の梅干づくりを学ぶことにしました。

梅干し作りは手間も時間もかかる、と思う方が多いようですが、実は梅干は、梅雨から梅雨明けまでのわずか1カ月で出来てしまうのです。思いのほか手軽な保存食品と言えます。忙しい人が増えて、保存食品を手作りする余裕のない昨今ですが、市販の梅干は高価な割に無添加でないことが多いので、安くて美味しい手作りをおすすめしたいものです。

用意するものは、黄色く熟した梅、塩(梅の重量のおよそ15%)、焼酎(消毒用)、漬物用の容器(ほうろうまたは食品用プラスチック製)、落し蓋、重石、赤紫蘇、ざる、保存用容器です。

まず、6月の下旬、梅雨の時期に黄色く熟した梅を手に入れ、水で洗い、一晩水に漬けます。梅のヘタを取り、焼酎をスプレー噴霧し殺菌した容器に塩とともに入れます(写真左上)。焼酎で消毒した落し蓋の上に重石を載せ(写真中)、蓋をして風通しの良い場所に置きます。一週間ほどすると、塩の浸透圧により、梅から水分が出てきます(写真右上)この水分が酸っぱくて塩辛い梅酢です。

梅酢が十分に出てきたら、赤紫蘇の葉を軽く洗ってから塩で揉んであく抜きをし、塩気を洗い流し絞ります。梅酢の一部を赤紫蘇に振りかけて揉んで絞り、漬けてある梅に混ぜ入れ(写真左上)、再び落し蓋と重石をして、7月の後半、梅雨明けの時期まで漬け込みます。梅雨明け直後の、晴天が続く時期に、梅と絞った紫蘇をザルに載せ、3日ほど干します。梅干はこれで完成。干し上がった梅と紫蘇は、少しのざらめ糖とともに焼酎で消毒した保存容器に入れ、涼しい場所に保管します。

梅干はそのまま食べる以外にも様々な利用法があります。例えば、イワシの煮物に梅干を加えじっくりと煮たイワシの梅煮は、魚の生臭みを全く感じることなく、さっぱりとした味わいで骨までまるごと美味しくいただけます。また、梅干漬けの副産物として、梅を干して残った梅酢を利用して、長芋の漬物を作ることができます(写真右)桜色に染まった長芋は見た目も上品で、しゃきしゃきした歯ごたえ。市販では高級なおつけものを自家製できるのが魅力です。

梅干の作り方は地域や家庭で少しずつ違うようです。清潔な環境で漬け、しっかりと干した梅干は、常温で保管しても数年にわたっておいしく食べることができます。前回のブログでご紹介した梅干の効用を知り、作り方を知った今、こうした日本の伝統食品が途絶えてしまうことのないよう、毎年作り続け、いつか誰かに伝承したいと思います。

次回は、梅干を使った食の最新トレンドについてご紹介します。

Reported by 菅原研究所 青池ゆかり

日本の伝統食、梅干 ①

7月30日は梅干の日って、ご存知でしたか?
日の丸弁当、おにぎり、巻きずしなど、梅干は日本の食卓に欠かせない食べ物ですが、昔から「梅干しを食べるとその日の難が去る」と言われてきました。その言い伝えにちなみ、和歌山県の梅干専門店が7月30日を梅干しの日にしたそうです。

子供の頃、風邪をひいたりお腹を壊したりすると、母が作るのは決まってお粥に梅干でした。食欲がなくても食べられて、しばらくすると元気になる。不思議な食べ物でした。子供がお粥なら、お父さんはお茶漬け。夕方、会社帰りに仲間と飲みニケーション。仕事の苦労話で盛り上がり、ついつい飲み過ぎ。お酒のシメに食べたいのが、酸味と香り豊かな海苔と梅干が入った梅茶漬け。お父さんはこのお茶漬けで二日酔いにもならず、明日も元気に会社に行くわけです。

このように、わたしたちは日頃から梅干を食べて体調を整えていることがよくあります。事実、梅干は古くから食物であり薬でもありました。梅干は梅の実を塩漬けにして干したものですが、中国原産の梅が日本に伝来したのは奈良時代以前とのこと。最初は鑑賞目的でしたが、その後、梅の実に薬効があることが判明し、薬として梅干が作られるようになりました。

戦国時代、武士たちは兵糧(携帯食)として、胡椒、梅干と乾燥ご飯を持って戦に出かけました。胡椒は疲れたときの気付け薬。梅干は食べるのではなく、見るだけで唾液を出してご飯を食べたのだそうです。梅干はいざというときのための薬だったので、実際に味わって食べることはめったになかったそうです。最近、戦国時代に武士が食べていたものを「武士メシ」といって話題になりました。現代にいたっては、企業に仕えるお父さんたちが飲んだ後に食べる梅茶漬けも、戦い続けるための食事ですから、これも一種の武士メシかもしれませんね。

日本では歴史を通じ、梅干に多くの効能があることがわかってきました。梅干のおにぎりやお弁当は腐りにくいことから、梅干には殺菌・抗菌効果があることは確かです。また、上述のとおり、体調改善および疲労回復効果もありますね。梅の実の果汁を濃縮した梅肉エキスは高価な健康食品として60年も前から販売されており、愛好者も多いようですが、最近では梅の血流や疲労を改善する効果に注目し、梅肉エキスに糖分やビタミンなどの成分を加え、自転車や陸上競技の選手など、アスリート向けの最先端サプリメントに進化を遂げています。梅干には、まだまだ発展の余地があるかもしれません。梅干の成分や効能については、後の機会に詳述したいと思います。

次回は、家庭で簡単に作れる万能食品梅干の作り方をご紹介します。

Reported by 菅原研究所 青池ゆかり

日本語版『照り焼きレシピ』も販売開始です!

この本では日本の基本的な照り焼き調理法はもちろん、照り焼きの調味料をベースに、
そこにジャムやフルーツを加えたり、生姜やカレー粉などの香辛料を加えることで
新しく軽やかなレシピに展開しています。
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