日本の伝統食、梅干 ②

わたしの実家では、母が毎年梅干を漬けていました。嫁いだ後、梅干が食べたくなってお店で買ってみると、見た目も良ければお値段も張るのに、味にはがっかり。特に近年市販されている梅干は、あまり塩辛くも酸っぱくもなく、「らしくない」味。健康のため減塩を好む人が増えたため、塩分を大幅に減らしたものが良く売れているようですが、甘味料を加えてあったり、着色もしてあったりで、梅干本来の健康効果があるのかどうか?

そこで母に頼んで、文字通り無添加の酸っぱい梅干を作ってもらうことにしました。母は長年の経験から、近所でも評判の梅干名人になっていました。以来、わたしは苦労もせずおいしい梅干にありついていたのですが、母も年を取ってきて、重たい材料を買ってきたり、立ったり座ったりの漬物作業で足腰に負担がかかるようになってきたため、今年は一から、名人直伝の梅干づくりを学ぶことにしました。

梅干し作りは手間も時間もかかる、と思う方が多いようですが、実は梅干は、梅雨から梅雨明けまでのわずか1カ月で出来てしまうのです。思いのほか手軽な保存食品と言えます。忙しい人が増えて、保存食品を手作りする余裕のない昨今ですが、市販の梅干は高価な割に無添加でないことが多いので、安くて美味しい手作りをおすすめしたいものです。

用意するものは、黄色く熟した梅、塩(梅の重量のおよそ15%)、焼酎(消毒用)、漬物用の容器(ほうろうまたは食品用プラスチック製)、落し蓋、重石、赤紫蘇、ざる、保存用容器です。

まず、6月の下旬、梅雨の時期に黄色く熟した梅を手に入れ、水で洗い、一晩水に漬けます。梅のヘタを取り、焼酎をスプレー噴霧し殺菌した容器に塩とともに入れます(写真左上)。焼酎で消毒した落し蓋の上に重石を載せ(写真中)、蓋をして風通しの良い場所に置きます。一週間ほどすると、塩の浸透圧により、梅から水分が出てきます(写真右上)この水分が酸っぱくて塩辛い梅酢です。

梅酢が十分に出てきたら、赤紫蘇の葉を軽く洗ってから塩で揉んであく抜きをし、塩気を洗い流し絞ります。梅酢の一部を赤紫蘇に振りかけて揉んで絞り、漬けてある梅に混ぜ入れ(写真左上)、再び落し蓋と重石をして、7月の後半、梅雨明けの時期まで漬け込みます。梅雨明け直後の、晴天が続く時期に、梅と絞った紫蘇をザルに載せ、3日ほど干します。梅干はこれで完成。干し上がった梅と紫蘇は、少しのざらめ糖とともに焼酎で消毒した保存容器に入れ、涼しい場所に保管します。

梅干はそのまま食べる以外にも様々な利用法があります。例えば、イワシの煮物に梅干を加えじっくりと煮たイワシの梅煮は、魚の生臭みを全く感じることなく、さっぱりとした味わいで骨までまるごと美味しくいただけます。また、梅干漬けの副産物として、梅を干して残った梅酢を利用して、長芋の漬物を作ることができます(写真右)桜色に染まった長芋は見た目も上品で、しゃきしゃきした歯ごたえ。市販では高級なおつけものを自家製できるのが魅力です。

梅干の作り方は地域や家庭で少しずつ違うようです。清潔な環境で漬け、しっかりと干した梅干は、常温で保管しても数年にわたっておいしく食べることができます。前回のブログでご紹介した梅干の効用を知り、作り方を知った今、こうした日本の伝統食品が途絶えてしまうことのないよう、毎年作り続け、いつか誰かに伝承したいと思います。

次回は、梅干を使った食の最新トレンドについてご紹介します。

Reported by 菅原研究所 青池ゆかり