旨みの素と縁起物―日本の乾物 ②

近頃では、普段の食材や日用品ならスーパーマーケットで済ませる人が多くなりました。もちろん乾物も、普段はスーパーで買う人がほとんどです。しかし、かつてどこの町にも商店街があり、米屋、八百屋、魚屋など、専門店が軒を連ねていた頃は、乾物を専門に扱う店もありました。幼い頃、乾物屋に行った記憶があります。店にはたくさんの鰹節が並び、手に取ったことを覚えています。そして、乾物屋さんはとてもいい匂いがしました。

美味しい日本のお料理を作るとき、決め手となるのがだし(出汁)です。今では長期保存できるように加工した液状や顆粒状のだしが市販されているので、知らない人も多いと思いますが、一世代前までは一般家庭でも毎日だしをとっていました。

例えば、味噌汁に使うだしは主に鰹節、昆布、煮干しを使って作りますが、日本全国同じ風味ではなく、地域によって異なります。
関東地域では鰹節のだしで味噌汁を作る家庭が圧倒的に多く、関西地域では鰹節と昆布のあわせだしが主流です。魚を好む九州・四国地方では煮干しだしの味噌汁が大多数とのことです。

なお、料亭など本格的な日本料理店では、鰹節と昆布で作る一番だしが、だしの中でも最高級として位置づけられています。これは、日本料理ではだしがもたらす旨みの中でも、鰹節のイノシン酸と昆布のグルタミン酸との組み合わせが最高の旨みを引き出すとされているからです。

日本には75,000超の寺がありますが、仏教では生き物を殺してはならないという戒律があるため、僧侶は肉や魚を食べることが禁じられていました。寺では僧侶自らが肉や魚を使わない料理、精進料理を作っており、すべての寺ではありませんがその習慣は今も残っています。彼らは鰹節の代わりに昆布や干し椎茸、乾燥大豆でだしを取ります。精進だしは動物性の出汁に比べあっさりしていますが、決して引けを取らない香りと旨みがあります。

ところで、乾物はだしの材料である鰹節と昆布を含め、冠婚葬祭などの行事では料理以外でもなくてはならない存在です。例えば、結納(ゆいのう)。結納は、結婚を決めたカップルが双方の家族を交え、結婚の約束を確認する婚約の儀です。近頃では結納を省略、あるいは会食のみに略式化するカップルが増えていますが、伝統を重んじる家や地方では所定の手続きに従って行われます。

結納の当日、新郎家は結納品を新婦家に贈ります。正式な結納品の中身は、結納金、勝男武士(鰹節)、寿留女(するめ)、子生婦(昆布)、友白髪(麻糸)、末広(扇子)、家内喜多留(酒料)、長熨斗(あわびのし)、目録の9つです。新婦家からも同様の物を新郎家に贈り、交換することで結婚を確約します。本来はお金の代わりに着物や帯を贈ったそうですが、その他の品々は縁起物として意味を持っていました。鰹節は男性の力強さを象徴し、するめは末永い幸福、昆布は子孫繁栄、白い麻糸は長寿と絆、末広は繁栄、あわびのしは不老長寿を願う品々です。これら鰹節、するめ、昆布、あわびは縁起物であると同時に貴重な保存食品として、ハレの日に欠かせないものでした。

このように、一見石のように硬い塊や黒い板が魔法の調味料になったり、古くは儀式や交易に珍重されていたりと、乾物は、見た目はとても地味ですが、驚くほど幅広い価値を持っています。次回はさらに驚きのエピソードを紹介します。

Reported by 菅原研究所 青池ゆかり