醍醐味ってどんな味?-日本最古の乳製品

「旅行の醍醐味は、思いがけず興味深いものに出会う瞬間にある」
わたしたちは、「物事の一番いいところ」を表現するとき、「醍醐味」という言葉をよく使います。でも、そもそも醍醐味ってどんな味なのでしょう?

語源を調べてみると、醍醐味とは、仏教の経典に書かれていた言葉でした。
曰く、経典の中でも涅槃経が釈迦による最高の教えを説くものであり、それは喩えてみれば、乳製品を加工する5つの過程(五味)の中で最高の「醍醐」に相当するとのことです。
涅槃経によれば、五味とは以下の過程をたどります。
乳→酪→生酥→熟酥→醍醐
よって醍醐味とは、仏教の最高の教えに匹敵する最高の味、もっとも完成度の高い乳製品ということになります。

仏教に乳製品?しかも、仏教がインドから中国、朝鮮半島を経て日本にやって来た時代に、乳製品があったとは!そして醍醐とは、バター、それともチーズ?
日本に仏教が伝来したのは今から1,500年も昔の話です。ところが、日本に乳製品が本格的に普及したのは第二次世界大戦後のことで、それまでの間、日本では一般人がミルクやチーズを食べることはなかったはず。だとすれば、醍醐は日本最古のチーズかもしれません。

ところで、チーズとはいつ、どうやって作られたのでしょうか?
チーズとは、乳を何らかの方法で凝固させ、水分を排出して固めたものですが、その起源については諸説あり、正確な起源はわかりませんが、今から5、6千年前の大昔からあったとされています。

チーズは乳製品の中でも、原料や製法の違いにより実に多くの種類があります。
パンやワインと同様、チーズも偶然の産物ですが、チーズの加工方法は大きく分けて3つあります。それらは、1)レンネットという酵素で固める方法、2)酢などの酸を加えて固める方法、3)加熱して煮詰める方法です。
わたしたちが今日食べているチーズは欧米型のチーズで、そのほとんどが1)の酵素凝乳法によるものです。

さて、醍醐はどのようにして作られたのでしょうか?
涅槃経によれば、醍醐は最上の味、しかも諸病を除くとあります。飛鳥時代になると、仏教とともに乳文化も日本に伝わり、醍醐の手前の酥(のちに蘇)については、天皇への貢物として、延喜式などの文書にその製法や献納の記録が残っているそうです。蘇は天皇や貴族だけが口にすることのできた、栄養満点の極めて貴重な加工食品だったのです。

蘇の作り方は、上述の3)の方法、牛の乳を煮詰めて水分をなくし、熟成させ固めたもの。これがおそらく日本最古の乳製品で、醍醐は日本で作られなかったようです。結局、醍醐味はまぼろしの味でした。また、日本において乳製品を食べる文化は貴族社会の終わりとともにすたれてしまいます。

そんなわけで、醍醐味の味を知ることはできませんでしたが、その手前の蘇の味は知ることができます!飛鳥時代の都に近い、香久山の南麓にある牧場が古代の蘇の製造に成功、「飛鳥の蘇」として販売しています。牛乳だけで作られた、添加物を含まない自然食品です。

さっそくネット通販で取り寄せてみました。茶色くて表面が固く、見るからに古代のチーズ。味はほんのり甘くてコクがあり、確かにチーズの味わいです。1,300年前の飛鳥時代には、ほんの一握りの高貴な人たちしか口にできなかった味。醍醐味の語源をきっかけに、古代のザ・ベスト―日本最古の乳製品の味に触れることができました。

「飛鳥の蘇」みるく工房飛鳥サイト: http://www.asukamilk.com/so/index.html

Reported by 菅原研究所 青池ゆかり