文化的な暮らし②

前回のブログで、禅寺の修行僧の食事について触れましたが、今回は禅宗のお寺ならではのシンプルで洗練された食事について紹介します。

禅宗は座禅を修行の基本とする仏教で、最初に日本に伝わったのは鎌倉時代。中国で学んだ僧が日本で布教を開始し、座禅の仕方の違いから、臨済宗、曹洞宗という2つの宗派ができました。江戸時代になると、中国から渡来した僧が黄檗宗という第3の宗派を開創しました。

禅宗では座禅の他、掃除や洗濯、炊事といった雑務を修行として行い、特に食事を作ることは極めて重要な修行です。調理を担当するのは、典座(てんぞ)と呼ばれる、長らく修行を積んだ徳の高い僧から選ばれた僧侶が行います。仏教では肉や魚はもちろん、にんにくやにら、ねぎといった精のつく食べ物は煩悩をもたらすため、食べてはいけないことになっています。このような規律に従い、野菜・果実・穀類・海藻を中心とした料理を臨済宗、曹洞宗では精進料理、黄檗宗では普茶料理と言います。

精進料理は曹洞宗の開祖、道元が布教と共に確立しました。特徴としては、五味五法五色。これは和食の基本でもありますが、五つの味(辛、酸、甘、苦、塩)、五つの調理法(生、煮る、焼く、揚げる、蒸す)、五つのいろどり(青、黄、赤、白、黒)を上手に組み合わせるという概念です。修行僧が食べる料理は通常食で、お粥や麦飯と1、2種類のおかずと漬物だけですが、来客や高僧をもてなす展待食はごちそう。ご飯、おかず数品と汁をお膳に載せたものです。精進料理は後の時代、茶の湯と共に客人をもてなす茶懐石に影響をもたらすものとなります。

一方、黄檗宗の普茶料理は日本に帰化した中国の僧が伝えた、中国風の精進料理です。一人分がお膳に入っているのではなく、4人で一つの卓を囲みます。上下の隔たりなく、食事そのものを楽しみ、禅宗の他の二つの宗派よりも開放的です。ごま油を多く使うのでコクがあり、特に豆腐や葛を巧みに用い、肉や魚や卵に似せた料理、擬製料理が特徴的です。見た目も精進料理とは思えないほど豪華です。

精進料理と普茶料理。いずれの料理にも共通しているのは、食材それぞれの持ち味を最大限に活かすというところです。命の源である食材を大切にするということから、どんな食べ物も無駄にせず、食べられるところは捨てずに使う。基本的にすべて手作りで、手間と工夫を惜しまない。食材と共に食べる人のことも考え、限られた食材を使い、目で見て四季を感じ、食べて美味しい食事を作っています。

昨今では、一般人向けに精進料理や普茶料理を提供するお寺が全国各地にあります。手間暇をかけながらも、シンプルで洗練された食事とはどんなものか?実際に目で見て味わってみるのも面白いですね。

臨済宗光明寺(栃木県):http://www.botandera.com/shoujin.html
真言宗高尾山薬王院(東京都):http://www.takaosan.or.jp/shojin.html#about
普茶料理 梵(東京都):http://www.fuchabon.co.jp/index.html

Reported by 菅原研究所 青池ゆかり